研究概要 |
Le Traite des trios imposteurs, 1768 (L'Esprit de Spinoza, 1719)は、明らかにオランダに亡命した元カルヴァン派著作家、出版業者等の環境から生み出され、18世紀後半におけるキリスト教的神観否定の流れを支える代表的な啓蒙期地下文書となった。しかし、この文書の発生現場では、厳格なカルヴァン派の周辺に、レモンストラント派、ソッツィーニ派、スピノザ主義らの思潮が渦巻いていた様子が見られる。厳格なカルヴァン派であったがゆえにかえって、迫害時における「神の沈黙」を理論的に認める立場から、一挙に懐疑を経て他宗派、スピノザ主義の「神」へと向かう跳躍もありえたと思われる。すなわち、神の問題における合理的理論立てが中心と見えていながら、その内実を「良心」の問題が満たしていたとも言える。そうであるならば、一般には理神論へとつなげて考察される自由主義的あるいは合理主義的キリスト教教義を求めた諸派、あるいはそのような中から発した著名な地下文書、たとえば、Pierre Cuppe, Le Ciel Ouvert a Tous Les Hommesなどに対しても、このような良心の危機からの別の解決回路として見るという分析を進める必要がある。すなわち、18世紀における理神論と無神論という相容れない2潮流を、「良心の危機」を通してのキリスト教的神概念の解体あるいは再構築という一つの構図の中に位置づけるのも可能と思われる。なお、このような新しい研究視点から、Le Traite des trios imposteursの原典翻訳『三人の詐欺師論』を2004年末までに、またPierre Cuppe, Le Ciel Ouvert a Tous Les Hommesの原典翻訳を2005年末までに完成させ、出版する企画が成立した。
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