本研究「フランスにおける<外国語>文学の成立理由とその現状」は、とくに東欧からのフランス亡命作家たちが、彼らにとっての「外国語」であるフランス語を作家としての言語としてあえて選んだのはなぜか、またこの言語的選択は彼らにどんな困難と新たな可能性をもたらしたのかを、きわめて今日的な興味深い現象として研究するものであった。当初の計画ではとりわけチェコからの亡命者ミラン・クンデラ、ルーマニアからの亡命者シオラン、ボーランドからの亡命者ゴンブローヴィチのケースを取り上げる予定であった。 しかるに、毎年フランスに出張してそのひとりであるミラン・クンデラを中心とする作家・研究者たちと討論を重ね、インタビューを繰り返しているうちに、この世界的な名声をもつチェコ出身のフランス作家との関係がことのほか深くなり、もっぱら彼を中心とする研究、および研究発表が主な成果となった。とはいえ、すでに発表したその成果は我が国のフランス文学研究にあって、それなりに重要な意義を有するものと判断される。 むろん、それ以外の研究対象をおろそかにしていたわけでもなく、ゴンブローヴィチ研究の成果は本年度の東京外国語大学総合文化研究所の機関誌に単独の論文として発表を予定しているし、またシオランその他の亡命文学のことも、本年8月に予定している国際シンポジウム「<世界化>の時代における文学の存在理由」の発表者として、研究成果の一端を披瀝するつもりである。
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