今年度は、現代フランス語において、過去の事態を表現する時の事態の認識の仕方とその表現の方策の関係の中でも、特に、完全に発話時と切り離された一連の事態を継起的に物語る時に用いられる単純過去との比較の観点から、複合過去の用いられ方について、1人称小説や雑誌記事などを資料として分析を行った。具体的には、小説などの書き言葉において、単純過去に混じって回想的に用いられる複合過去が表す事態は、発話者(語り手)および発話時点(語り手の現在)とどのような関係にあるか、すなわちどのような意味でそれらの事態が発話者・発話時点と関わりを持つ事態として捉えられているのかという点について、これまでの研究の延長線上でさらに細かく検討をした。その結果、Franckel(1989)が挙げる二つのタイプだけでは、すべての場合をカバーするのは不可能であるという結論に達した。また、分析の結果得られた複合過去のタイプのうち、発話時の状況の理由付け・説明のために過去の事態を述べる複合過去のようなテキスト機能の観点から捉えられるタイプと、経験・継続を表す複合過去や限界達成を表すような、いわば複合過去に内在する操作から由来するタイプとを分けて考える必要性があることを明らかにした。1人称小説を対象とした分析に基づく研究成果の一部は論文として執筆し、2003年5月に刊行予定である。 また以上の研究と平行して、普遍的な観点から完了という操作を研究するために、中国語の完了のマーカーを研究している日本在住の台湾人研究者(言語文化研究科修了生)と議論を重ね、中国語の完了マーカーについての共同論文を執筆、2003年5月に刊行予定である。
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