本研究の目指すところは、プルーストの小説・評論などの各種刊本、コルブ編纂の『プルースト書簡集』、私どもが作成した『書簡集総合索引』、手元のプルースト関連文献および現在までの研究成果にもとづき、プルーストと絵画に関する表象と文体について総合的な調査研究をすることにあった。そのため本年度は、(1)これまでのプルーストと絵画に関する資料、諸研究を見直し、架空画家エルスチールに関する情報を補うとともに、とくにプルーストの時代の新たな絵画資料を収集した。 (2)国立図書館所蔵のプルーストの草稿、タイプ原稿などを再調査する一方で、オルセー美術館資料室の絵画情報なども詳しく調査し、作家と絵画の接点をあらためて探求した。 (3)以上の(1)(2)の資料をまとめてコンピューターに入力することで、情報の効率的な処理をはかった。 (4)以上の資料分析にもとづき、『失われた時を求めて』に現れた絵画について、実在画面(カルパツチョ、フェルメールなど)と架空画面(エルスチールの「ミス・サクリパン」および「カルクチュイ港」など)では本文の描写にどのような相違があるのかを詳しく考察した。 (5)さらにエルスチールの架空画面や小説の自然描写において、「表象と文体」に関する予備考察として、そこに機能している「印象主義」がいかなるものかを解明するよう努めた。 (6)上記(4)(5)の考察の一部を「研究発表」の項に記した論文にまとめ発表した。 このように作中に現れた絵画の「表象」については相応の研究の進展をみたが、描写の「文体」についての考察は次年度の課題として残された。
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