研究概要 |
本研究の目的は、平成14年度と15年度にわたり、『失われた時を求めて』に現れた絵画作品の描きかた(表象と文体)について考察を深め、プルースト研究に新たな貢献をすることにあった。1.これまでのプルーストと絵画に関する資料、諸研究を見直し、架空画家エルスチールに関する情報を補うとともに、プルーストと同時代の絵画に関する資料などを収集した。2.オルセー美術館資料室の絵画情報を詳しく調査し、作家と絵画との接点をあらためて探求するとともに、フランス国立図書館が所蔵するプルーストの草稿資料を再調査した。とくに後者のマイクロフィルムを購入する道が拓けたので、とりあえず最も重要な草稿帳75冊と清書帳20冊のマイクロフィルムを購入し、作家が作中で絵画をどのように表象したかについて、具体的な調査研究を進めることができた。3.草稿資料の専門研究者であるナタリー・モーリアック(CNRS)を日本に招き、同資料およびプルーストと絵画について助言を仰ぐとともに、本課題について共同で研究する機会をえた。4.以上の調査研究により、『失われた時を求めて』に現れた絵画について、実在画面(カルパッチョ、フェルメールなど)と架空画面(エルスチールの「ミス・サクリパン」および「カルクチュイ港」など)では本文の描写にどのような相違があるのかを解明した。5.作中の架空画面や自然描写において、その表象と文体に自然主義がいかなる役割を果たしているか、絵画の表象に芸術上の偶像崇拝がいかに深くかかわっているかも考察した。6.これらの研究成果は、フランスで出版されたDictionnaire Proust (Champion,2004)の43項目執筆にも活かすことができた。 文体をめぐる研究課題は、今後、プルーストと絵画をめぐる総合的著作のなかでまとめたい。
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