著書のLes metamorphoses du pacte diabolique dans l'ceuvre de Balzacは、パリ第7大学で取得した博士号の学位論文を手直ししたもので、今年度の科研費(研究成果公開促進費)の補助を受けて、大阪公立大学共同出版会とフランスのKlincksieck社と共同出版したものである。本著書では、19世紀前半のフランスの社会的背景を考慮に入れながら、バルザックの初期小説から『人間喜劇』の作品群へと年代を追って取り上げ、そこに現れる「悪魔」の表象、「悪魔との契約」の変貌を追及し、バルザック独自の「悪魔」観を検証した。第一部では、幻想空間における「悪魔との契約」のテーマを探り、第二部では、金融小説や結婚契約に関する現実的な世界を描いた作品の中で、このテーマがどのように描かれているかを、ブルジョワ的な契約の観念と対比しながら考察した。学術論文(1)「『椿姫』におけるクルチザンヌ像-マルグリット・ゴーチエとマノン・レスコー」では、アレクサンドル・デュマ・フィスの『椿姫』に登場するクルチザンヌがどのように描かれているかを、この小説に大きな影響を与えたアベ・プレヴォーのマノン・レスコーと比較しながら分析した。その結果、性的に放縦であったレジャンス時代とは違い、王政復古時代を舞台とするデュマの小説が、ブルジョワ道徳を体現するものであることが明らかになった。(2)「もう一人の「椿姫」-ジョルジュ・サンドの『イジドラ』-」では、デュマの『椿姫』より2年前に出版されたジョルジュ・サンドの『イジドラ』という作品においても、「椿姫」が登場することを指摘し、サンドが女性の視点から描くクルチザンヌ像と、デュマなど男性作家の抱くクルチザンヌ像を比較対照し、その相違点を明らかにした。(3)「ウージェーヌ・シュー『パリの秘密』における娼婦像」では、19世紀のフランスの新聞小説で、民衆の圧倒的な人気を博したウージェーヌ・シューの作品『パリの秘密』を取り上げ、そこに現れる娼婦像を、当時の社会学的な調査・研究資料を参照しながら探った。
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