平成14年度からフランス・ロマン主義文学におけるクルチザンヌ像の分析ということで、アベ・プレヴォーの『マノン・レスコー』、アレクサンドル・デュマ・フィスの『椿姫』、ジョルジュ・サンドの『イジドラ』に登場するクルチザンヌ像を比較対照して分析してきた。本年度は、7月にジョルジュ・サンドの生誕二百周年を記念してフランスのスリジーで1週間にわたって国際シンポジウムが開催されたが、筆者はそれに参加し、フランス、アメリカのサンド研究者の研究発表を聞くと同時に、活発な意見交換を行った。更に、10月には東京での日本ジョルジュ・サンド学会主催の国際シンポジウムの企画・運営に携わり、《La figure de la courtisane chez Georege Sand : Isidora》というタイトルのもとでフランス語で発表を行った。これに関しては、現在、Actes du Colloqueの刊行を準備中である。このシンポジウムにはフランスから6人の研究者が研究発表のためにフランス大使館の招聘で来日したが、これらサンドの研究者と意見交換の機会を得て、有意義な指摘を受けることができた。また、5月には日本フランス語フランス文学会主催の学会(於 白百合大学)でバルザックの『マラナの女たち』におけるクルチザンヌ像について、口頭発表を行い、その成果は17年3月に刊行された学会誌に仏文で掲載された。更に、2003年のフランスのトゥールでのバルザックの国際シンポジウムで筆者が発表した論考が2004年10月に刊行された論文集Balzac Geographe Territoireに掲載された。その他に、ヴィクトル・ユゴーの作品(とりわけ『レ・ミゼラブル』)における娼婦像を分析し、紀要論文としてまとめた。 今年度は本研究最後の年にあたり、研究報告書として3年間の研究をまとめて印刷物にした。第一部は「マノン・レスコーから「椿姫」へ」というタイトルのもと、プレヴォー、デュマ・フィス、サンドの作品に現れるクルチザンヌ像の分析をまとめた。とりわけ、女性の視点から描いたサンドの作品と男性作家の作品の相違に焦点を当てた。第二部は、筆者が長年研究してきたバルザックの『人間喜劇』に登場するクルチザンヌを取り上げ、その本質を探った。それと同時に、年代順に作品を追うことで、バルザックのクルチザンヌ像の変貌を検証していった。第三部では、「社会小説」のジャンルに入るウージェーヌ・シューの『パリの秘密』、ユゴーの作品を取り上げ、パラン=デュシャトレなど社会学者たちの著作を考慮に入れながら娼婦像を考察した。まだ他にも取り上げたい作品は幾つもあったが、残念ながら時間の制約でそれを果たせなかった。しかしながら、今回の研究で、フランス・ロマン主義文学におけるクルチザンヌ像の大まかな輪郭を把握できたと自負している。
|