1、〔調査活動〕 本研究課題である「ドイツのユートピア思想とモダニズムの生活改革運動に関する総合的研究」は、そもそも平成11年度から13年度まで科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))の交付を受けた研究「ドイツ産業革命以降の生活改革運動とその文化的影響に関する総合的研究」を発展させた性格のものである。後者の研究課題においては、特に19世紀末から20世紀初頭にかけての世紀転換期における種々の生活改革運動、特に田園都市建設運動に焦点を当て、その実践と思想的特長を研究したが、本研究課題においてはさらにそれらの思想的伝統全体を視野に納めるべく、ドイツ精神史における生活改革思想およびユートピア思想の源流と系譜を辿ることに目的を置いた。ドイツの生活改革思想の源流は、15世紀後半から流布していた「改革文書」と呼ばれる類の制度改革的提言や、トマス・モアの『ユートピア』に影響された人文主義者達によるユートピア文学等に求めることができる。よってまずこれらの文書に関する資料および作品の収集と研究が本年度の活動の中心となった。 2、〔研究発表活動〕 まず前回の科学研究費補助金研究テーマに関する論文のシリーズを完結させ、ドイツにおける田園都市建設運動の意味をその現代的課題と歴史的通時性において本研究課題とも関わるユートピア思想全体の視座の中で捉えなおした。さらに、ドイツ文学史上における最初のユートピア文学でありながら本国でも長く忘却され、日本でも未だ研究が及んでいない作品、カスパール・シュティブリンの『エウダイモン国見聞記』を紹介しつつ、そのユートピア思想としての特徴や「改革文書」及び宗教改革運動との関連等を知識社会学的な観点に於いて研究した論文を発表した。
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