本研究は、身体部位を構成要素にもつ日独語の慣用句を、対照言語学的立場から様々なレベルにおいて比較分析し、両言語の慣用句にみられる個別的・普遍的特徴を実証的に調査・分析することが目的としている。身体部位は、慣用句の構成要素として、日独語に限らず、各言語の慣用句において、頻繁に認められる構成要素に数えられる。 平成14年度は、さまざまな分野の資料から収集された日独慣用句を、語彙、統語構造、意味等さまざまなレベルにおいて分析・検討を行った。日本語とドイツ語という、言語類型論的にも大きく異なる言語の慣用句を比較対照するためには、共通の分析基準を設定する必要がある。まず慣用句の意味を成立させるメカニズムが検討され、慣用句としての意味は、(1)慣用句の構成要素の比喩的意味と(2)慣用句の具象性というふたつの要因が関係して成立していることを明らかにした。そして、慣用句の構成要素である語彙が、慣用句の中でどのような比喩的意味を表しているか、また、慣用句の意味が成立する前提として、慣用句にはどのような具象性が認められるか、更にはこれらの要因がどのように関与しあって慣用句としての意味が生じているかについて、個々の日独慣用句の分析が行われた。その結果、言語構造や言語の発展過程において大きく異なる日独語の慣用句においても、身体部位を構成要素にもつ慣用句では、身体部位が慣用句の中で表す比喩的意味、および身体部位を構成要素に持つ慣用句の具象性について、多くの共通点が認められた。 本年度は、これらの特徴を更に詳しく調査・分析し、日独慣用句に認められる特徴を体系化していく予定である。この作業は、来年度も継続して行われる。
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