1.12世紀からカルシュ時代までのドイツ女性史、とくに女子教育に着目してカルシュの特異な位置を確認した。作家にかぎらず、文字を書き、書物を著す女性は当然のことながらそのほとんどがいわゆる教養人であった。カルシュの特異性は大伯父から文字を習い、ラテン語まで学習した以外は、学校教育さえ受けなかった点である。いくつかの作品は、「自学自習」の痛ましい努力の痕跡を示している。たとえば、古代神話の知識はほとんど詩の美的価値を損なうほどに披瀝されている。 2.18世紀の女性観によれば、女性は妻・主婦・母として夫と子どもに奉仕し、それをつうじて国家に奉仕することを義務づけられ、学識のある女は家庭を破壊するとさえ考えられていた。そして、それは「自然」(女性の天性)の当然の結果だといわれた。しかしカルシュは、妻・主婦・母とはなったが、シュレージェンで最初の離婚婦人となった。と同時に、その詩には痛々しい自学自習の痕跡が認められるのである。カルシュの困難は第一に、生き抜く方便を見つけることにあった。いわば辺境の地にあって、「啓蒙」のもっとも重要な手段である教育をないがしろにされた牛飼い、幼妻が、極貧の暮らしから脱出することこそ人生第一の目標だったのである。そのためには時代に竿さしながら、詩才を活用して生活費を得るほかはない。第二の困難は、学識と、女であることと、離婚婦人であることと、「自然」讃美という時代思潮とをうまく結びつけ、利用して生きていくことにあった。カルシュの自伝的作品が、一方で極貧の境遇を歌い、他方でその生い立ちを「自然」児になぞらえ、その詩才が「自然」のたまものであることを力説するのは、女であることをも含めた人生のハンディキャップを、「自然」を利用して克服しようとしたあかしなのである。
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