研究概要 |
19世紀末から20世紀初頭にかけてドイツ語圏に流布した反ユダヤ主義文献の調査を開始したが,今回,1899年にドイツで発行された「風刺戯画集」Symplizissimusに,ユダヤ人を椰楡する表現を発見することができた.そこでは,ある戯画の主人公が,その服装などから明らかにユダヤ人と推定されるよう描かれているが,戯画の(非ユダヤ人の)著者は,この主人公に「特殊なドイツ語」を発話させている.従って,ここに認められる「ユダヤ・ドイツ語」は当時,非ユダヤ系のドイツ人にとって,ユダヤ的な「口語表現」であると認識されていたものと思われる.それらの語形,あるいは音韻の一部は,確かにいわゆる「ユダヤ・ドイツ語」の特徴を反映しているといえる.しかしその反面,「ユダヤ・ドイツ語」との明確な関連を見つけることはできない特徴も見出される.現段階では、後者の特徴が、実際に「ユダヤ・ドイツ語」の何らかのバリエーションを反映しているのか,あるいは単に反ユダヤ主義者たちによって創作され,その後流布した「ユダヤ訛り」であるかを判断することはできない. そこで今後は,1)未確認の語形,音韻について,歴史的な「ユダヤ・ドイツ語」資料との対照を続ける一方で,2)19世紀末から20世紀にかけての,反ユダヤ主義的文献に,類似の「ユダヤ訛り」を見出すことができるかどうか検討を続けることとする.特に1)については,今後も,16世紀末期からのユダヤ・ドイツ語資料のデータベースの補完を目指すこととする.最終的には,1)および2)の研究結果を統合する.
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