本研究計画の目的は、第一に、ドイツ語圏における同時代文学の趨勢を追うこと、そして第二に、そうした同時代文学の検討を通して、いわゆる「戦後文学」を20世紀文学という枠のなかで位置づけ直す理論的作業を行なう、という二点に集約される。 平成15年度でも昨年度に引き続き、1)資料の収集・整理という実務的な作業と、2)実質上の研究内実として、作品・資料を読み込み、そして研究会を通じてそれを理論的に検討・考察してゆく、という二つの柱が中心になった。 1)資料の収集・整理作業は、予定通り順調に進捗した。主として、新聞・雑誌、及びインターネットのウェブサイトといった媒体から、政治文化の変動を如実に表わすような議論・発言、新しい文学作品をめぐる記事などを、系統的に収集した。今年度とりわけ重点を置いた主題としては、「反ユダヤ主義」「同性愛者の権利」「アフリカ系ドイツ人」などが挙げられる。 2)実質的な研究面では、諸研究会での討論、意見交換がさかんになされた。1999年以降東京都立大学を会場に、近隣在住研究者、オーバードクター、大学院生らによって構成されている、ドイツ現代文学を扱った月例研究会では、上記の反ユダヤ主義、同性愛者問題、アフリカ系ドイツ人をめぐる状況などについての報告・討論がなされた。また、年2回開催されている「ドイツ現代文学ゼミナール」の企画・調整を初見が担当し、さらに第42回現代文学ゼミナール(2003年8月26日)では初見が「現代ドイツにおける<ユダヤ>をめぐるディスクール」を口頭発表し、議論を深めた。 また、初見が編集委員として加わった、現代ドイツ文学を日本で紹介する雑誌「DeLi」(沖積舎)が創刊され、2003年に3冊が刊行された。
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