本年度の研究では、申請者自身の先行研究に立脚しつつも、都市技術・社会衛生学というこれまでのテーマと隣接した都市現象のフィールドに視点を拡大し、言説・表象の近代化プロセスをより体系的に検討することをめざした。このため具体的には、ベルリンにおける公衆衛生問題の典型として、<冷蔵庫とナチズム><真空掃除機とドイツ衛生学会><ミルクと中央衛生局><食肉加工所>という四事例を選び、1840年から1945年までの期間において、それぞれのメディアによる伝達のされ方を追い、そうした情報が同時代の生命観・衛生観をめぐるディスクールへのフィードバックのされ方を体系的に追った。数値データが文化的無意識に吸引されていく経過をさぐり、単に数値データにとどまらず、生命・健康問題をイメージ化し、図像化する表象プロセスまで視野にいれるためである。 これまでの検討作業は進行中であるが、公衆衛生という「専門的」言説を通して、生命と死をめぐり新しい言説の枠組みが「総体的・総合的」に都市空間をおおっていくプロセスを追って行く中で、とりわけナチス時代において、ラジオならびにテレビというメディア環境が果たした役割が浮かび上がってきたが、これを表象の近代化という大きなフィールドから分析、評価できた。そこでの分析結果は、単著書『ナチスのブラウン管(仮題))(集英社新書)刊行という形で、学会のみならず広く言論界へとフィードバックし、一般の読者にも公表している。
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