本研究の目的は、都市技術・社会衛生学という視点からバイオ権力の発動の場としての都市空間ベルリンの諸相を、とりわけメディア環境に重点を置きながら研究すること。それとの関連で、ベルリンと他の都市との間に形成された都市技術をめぐる情報ネットワークをディスクール分析することであった。墓地・埋葬形式・公衆衛生というテーマと隣接した都市現象のフィールドに視点を拡大し、言説・表象の近代化プロセスをより体系的に検討することをめざした。このため具体的には、第一に、ベルリンにおける公衆衛生問題の典型として、<冷蔵庫とナチズム><真空掃除機とドイツ衛生学会>といった都市現象を選び、1840年から1945年までの期間において、同時代の生命観・衛生観をめぐるディスクールへのフィードバックのされ方を体系的に追った。現時点までのところ、上記テーマのうち特に衛生問題に関して、ナチズムにおける戦没者の埋葬セレモニーとそのための衛生設備について成果を挙げることができた。本来個人の私的出来事であるばずの「死」が、ナチズムの国家観によってイデオロギー的に収奪されてゆくプロセスに焦点を当てた。その際、ナチズム以前の近代的公衆衛生観が援用され応用されてゆく過程を、林苑墓地構想というナチス特殊なプロジェクトとして具体化されてゆく形で確認できた。更にはこのプロジェクトが、党機関誌のみならず学会誌等の中立的メディアによっても、伝達され再生産されてゆく事実が確認された。そうすることで、党派的なイデオロギーが遂には理念的あるいは文化的無意識のレベルに吸引されていくダイナミズムの一端をさぐることができた。
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