本研究の目的は、都市技術・社会衛生学という視点からバイオ権力の発動の場としての都市空間ベルリンの諸相を研究すること。それとの関連で、ベルリンと他の都市との間に形成された都市技術をめぐる情報ネットワークをディスクール分析することであった。公衆衛生というテーマと隣接した都市現象のフィールドに視点を拡大し、言説・表象の近代化プロセスをより体系的に検討することをめざすため、具体的には、第一に、ベルリンにおける身体衛生問題の典型として、<身体表象モデル><スピード感覚><道路交通網と医学><ライヒスアウトバーンと身体>といった都市現象を選び、1930年から1945年までの期間において、それぞれ(a)数値的、空間的変容、(b)法的、行政的規制、(c)文化的慣習、(d)メディアによる伝達を介し、同時代の生命観・衛生観をめぐる言説への還元のされ方を体系的に追った。そうすることで、数値的な具体的データが、ついには理念的あるいは文化的無意識のレベルに吸引されていくダイナミズムをさぐった。 その結果、モータリゼーションを新機軸を背景に、衛生問題をもっぱら個人レベルで取り扱う、いわば近代初期の個人的衛生概念との比較検討が重要であることが判明してきた。スピード感覚、死の到来の確定といった従来の死をめぐる個人的な問題群が、モータリゼーションと公衆衛生のタームに変換されてゆく過程を浮かび上がらせた。 さらに、こうした衛生概念の変容が、狭義の専門的言説として存在していたばかりでなく、同時代のさまざまな言説と連動しあって、価値のネットワークとして機能している様子を、市民層を読者層にした"Motor und Sport"あるいは"STRASSE"といった各種出版物を広範に検索してディスクール分析を行った。以上の結果をレフェリー付き論文集等に複数発表したうえ、柏書房から単行本発刊の実務作業に入った。
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