本研究の目的は、都市技術・社会衛生学という視点からバイオ権力の発動の場としての都市空間ベルリンの諸相を研究すること。とりわけ19世紀ベルリンのメディア環境において形成された、衛生をめぐるディスクールの連鎖を分析することであった。 近代的な政治解剖学が人間の身体各部位に関して分節化してくると、「計算しつくされた身体と生命の管理」(フーコー)というマニュアル化された支配の体系、つまり「バイオ権力」の問題系列が生成する。バイオ権力は健康について語るが、しかし個人的なできごととしてではなく、集合的な健康保全統制システムの問題として語る。ここに近代化プロセスの研究として都市空間を語る必然性がある。この端緒として、十八世紀末以降におけるベルリンの墓地・埋葬形式を起点とし、公衆衛生・死生観という角度から近代化の過程をエピステモロジカルに分析してきた。 わけても次の二点が重要だった。(1)上記テーマと隣接した都市現象にさらに視点を拡大し、言説・表象の近代化プロセスをより体系的に研究していくこと。(2)とりわけ19世紀ベルリンのメディア環境において形成されてきた、生死・健康・衛生イメージの情報ネットワークに焦点をあてること。しかもそれらを狭義の科学史・技術史・社会史として扱うのではなく、都市生活者の価値の体系を構成するに到る広義な言説の枠組みとして分析する。 その結果、18世紀以来「公衆衛生」という公共的枠組みで捉えられ始めていた死体のイメージも、19世紀大量情報消費社会の黎明期、情報発信メディアという技術環境において、更に増幅されていく過程があぶり出された。メディアによる伝達のされ方を追うことにより、そうした情報が同時代の生命観・衛生観をめぐるディスクールへのフィードバックのされ方を明らかにすることを得た。
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