今年度は、西フリジア語文法記述の中で残る動詞の部分にかんする考察を進め、裏面の雑誌論文としてまとめた。扱ったのは分離動詞と非分離動詞である。分離動詞については、(1)分離動詞の「分離」という概念の扱いに従来、混同が見られ、それが基本語順と表層の語順のずれという統語論的な操作に由来し、語形成の問題ではないこと、(2)西フリジア語ではドイツ語やオランダ語で非分離動詞となっているものが分離動詞であることが多いが、近年のオランダ語との接触を通じて話者の言語意識に揺れが見られること、などを論じた。また、非分離動詞については、(1)西フリジア語のbe-動詞の使用範囲がオランダ語やドイツ語のbe-動詞よりもかなり広いこと、(2)その歴史的類型論的意義がどこに由来するかということ、(3)fer-動詞、mis-動詞、te-動詞の分布がオランダ語やドイツ語とどのように対応するかということなどを論じた。とくに(2)は従来の研究では十分には指摘されていなかった点である。 資料収集はドイツ、オランダ、北欧の最新の学術書やデータベースを中心に行った。また、パソコンを購入して電子メールを活用しながら、現地の研究者との交流に心掛けた。とくに、西フリジア語とオランダ語のバイリンガルであり、筆者のかつての恩師であるオランダ・フローニンゲン大学言語学科音声学教授のデ・フラーフ博士が北大を訪れるという幸運に恵まれ、以前から依頼してあったオランダ語とフリジア語の例文について母語話者としての立場から膨大な調査結果を得ることができ、それについて詳細な議論をする機会が労せずに与えられたことが最大の収穫だった。このような偶然に恵まれ、また、資料収集に予想以上の金額を費やし、複数の出版社と研究成果出版の交渉のために国内旅費を利用したこともあって、予定していた海外旅費の使用は控えた。
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