本研究の目標は北海ゲルマン語の唯一の後裔であるフリジア語、とりわけオランダ・フリースラント州で約35〜40万人の話者に用いられる西フリジア語(Westerlauwersk Frysk)の包括的な記述文法を完成させ、他のゲルマン諸語との比較を交えることによってゲルマン語類型論構築のための基礎固めをすることにある。フリジア語は西ゲルマン語と北ゲルマン語の中間の位置を占め、ゲルマン語類型論の観点から重要な存在だが、国内外ともに研究者が手薄である。本研究の成果は、平成15年12月に北海道大学に受理された筆者の博士論文『西フリジア語文法-現代北海ゲルマン語の体系的構造記述とゲルマン語類型論構築のための基礎的研究』とその後に発表した論文として結実した。これは筆者の十年あまりの現地調査と文献研究に基づき、フリジア語学の研究成果をほぼ網羅的に反映させて完成させた世界最大のフリジア語文法であり、従来のゲルマン語学の不備を補い、日本のフリジア語学を世界的水準に一挙に引き上げるものである。また、ヨーロッパ統合の潮流にあって、ヨーロッパ少数言語の擁護に寄与する点でも国際的な意義がある。とくに北ヨーロッパの研究機関の研究者と積極的に交流し、日本では皆無に近いフリジア語学・ゲルマン語学の参考文献を数多く入手したことが有益だった。
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