研究概要 |
本年度は第1に『アルハンゲリスク福音書』の索引の改良をひき続き行なった。特に接続詞のи と3人称代名詞жиの対格・単数иとの弁別作業を全面的に行なった。その結果30ほどの問題箇所が浮かび上ったが,『マリア写本』を第1の基準として判定していった。その際明らかになったのは,1)やはり形容詞・分詞において長語尾形を好むこと,2)テキストの提示において粗雑さが見られ,従ってカノンからの逸脱や付加が存在すること,である。第2に『ムスチスラフ福音書』本文を1983年刊行本のテキストに従い,全体の78%ほどを電子化した。次年度も継続する予定である。第3に『アルハンゲリスク福音書』における人称代名詞・2人称単数および再帰代名詞におけるрусизмの問題を研究した。与格・所格(D-L)に注目すると,OCS形ТЕБЪ,СЕБЪの他にрусизм形ТОБЪ,ТЕБЕ;СОБЪ,СЕБЕ,СОБЕが出現することが観察できる。これらの形態の内,第2のрусизм形ともいうべきТЕБЕ;СЕБЕ,СОБЕに注意すべきである。さらに次の知見を得た。1)Arch^1はТЕБЪ,СЕБЪの両語でOCS形とрусизм形が併存する。第2のрусизм形ТЕБЕ,СЕБЕの侵蝕が進行している。2)Arch^2はArch^1とは逆で,русизм形が圧倒的。第2のрусизм形ТЕБЕ,СЕБЕの侵蝕は進んでいるが,むしろこれをとび越えてТОБЪ,СОБЪに向かう傾向がある。3)第1音節の母音をЕからОに変ずる現象は,前置詞との結合時に生じやすい。4)同様のОの母音を有する格形が古く『スヴャトスラフ文集』1073年の155vに<ТОБЪ,ДБЛБ>と出現する。
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