研究概要 |
本年度は最終的には,研究のまとめと報告書の作成を行ない,主要な研究機関と研究者に送付した。それ以前,岩井は前年度にひき続き『ムスチスラフ福音書』本文を,Л.П.Жукоьокая ИАР,Апракос Мсгиcлава великого,Изл-во <<Наука>>,М.1983.の本文に依って,助手を使って電子化を行なった。写本文字・記号の多様さにパソコンフォントが対応しきれず多くの時間を費したが,第1次電子化を終了し,校正をまっている。正順索引および逆引索引の作成には至らなかった。さらに岩井は,極めて困難な交渉のすえ許可を得て,8月初旬にモスクワの国立図書館古写本部において『アルハンゲリスク福音著』1092年原本を閲覧した。1時間の閲覧しか許されなかったが,用意していた125項目ほどのうち最重要と考えた26箇所を検討した。その結果,18V-3ファクシミリ版の<постлавъшЕмоу>は<посъ лавъшЕмоу>の誤りであることを発見した。重大な誤りである。原本はその後UNESCOの世界史料遺産に登録された。服部は前年にひき続き動詞の問題にとり組み,『スヴァトスラク文集』を中心にすえて『スプラシル写本』さらに『アルハンゲリスク福音著』『ムスチスラフ福音書』との比較・研究を行なった。特に『スヴァトスラフ文集』の聖句引用に注目し,36箇所の新約聖書の引用からいわゆるカノンとの比較において52の異読を見い出した。これらは単にラフな引用による語彙的異なりでなく,東スラブの写本文化の伝統に従うものであったろうと,『スプラシル写本』との比較・対照によって明らかに推定できることを立証した。
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