本研究では、歴史と文学のはざまに位置するものを研究対象としてきた。これは、歴史として記録されているものを文献分析をするということをベースにおきながら、歴史として書かれていない部分をどのように記録し、あるいは記憶しているかという視点にたち、比較研究を行ってきた。 その際に、重要になると思われる南アフリカの女性たちの生活の中で、女性たちが社会との関わりでどのような意識を形成していたのかをインタビューや聞き書きを中心に研究調査をすすめてきた。こうした調査のなかから、アパルトヘイト下での女性の経験は、性差別と家父長制が加わり、男性のそれとは大きく異なり、アパルトヘイトの最悪の犠牲者になったことを明らかにできた。 南アフリカ文学のテーマとして描かれる女性像はまさに、現代社会の縮図ともなり、社会変容の過渡期を理解するうえで重要な資料として読み解くことができた。そしてこうしたテーマは、南アフリカ現代文学に新たな題材と方向性を与えつつあることがわかった。 アフリカ人作家たちは、いまだに出版という手段をもたないという矛盾のなかにいるが、それでもアパルトヘイト時代と同じく、社会への怒りを心に秘めつつ、異なった表現手法で、人間の心理を詳細にえぐり出し、矛盾を抱えた人間社会の本質へ迫ろうとしている。このように、人間の実存状況を政治力学からではなく深層心理からの解釈に注目し続けたい。
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