研究概要 |
今年度は、研究計画に挙げた課題の中で、(1)リンキング(=動詞意味論から文の項の形態統語的な実現へ至る過程)のニューロイダルネット上への実現の準備、(2)リンキング理論の基礎としての文の句構造の研究、に主に取り組み、(3)運動能力と統語構造の習得の類縁性/同根性(Greenfield1991)は、(1)と(2)に関する研究の進捗状況を考慮して、来年度以降に研究を開始することにした。 まず、(1)については、対格型格組織及び能格型格組織を例として、入力層(項の意味的素性と文内での情報構造上の地位)・隠れ層・出力層(格フレーム)から成る多層パーセプトロンに誤差逆伝播法を適用し、一応の成功を収めた。来年度以降、教師付き学習アルゴリズムを採用して得られた成果を、ヘッブ学習則に基盤を置くニューロイダルネット上に実現する予定である。なお、格理論に関する基礎研究として、従来、デフォルト格と呼ばれていた格には、汎用格とデフォルト格があることを論じた最近の研究を批判した中村(印刷中)を書き上げた。続いて、(2)については、言語習得過程の中で、一語文・二語文の段階から助動詞が出現するIP Stageと呼ばれる段階に到達する1歳半から2歳半までに焦点を絞り、幼児が耳にする発話を理解する過程を通じて、個々の句構造(例:VP, NP, AP, PP)、さらには、個々の句構造に共通する句構造(=X-bar式型)の獲得を目指したが、その結果、個別の語彙項目に縛られた発話を学習することができた。一般的な句構造を学習するために必要な、意味構造と統語構造の差分を同時に取る操作をニューロイダルネット上に実現する課題には、来年度取り組む予定である。 最後に、ニューロイダルネットに関する基礎研究として、短期記憶の効果の一部(初頭効果と親近効果)を実現し、更に、単純回帰ネットワークを拡張すると、文脈自由言語を処理できる決定性プッシュダウンオートマトンと等価の処理能力を持つことが可能であることを証明することに成功した(守谷・西野2002、川本・西野2002)。
|