研究概要 |
今年度は、昨年度にニューラルネット上に実現した対格型格組織・能格型格組織を実現する、学習アルゴリズムとして誤差逆伝播法を採用した多層パーセプトロンモデルを、大脳皮質の学習方式であるヘッブ学習則に移し替える基礎作業として、量子ニューラルネットワークの計算論的な吟味・検討を行った論文を発表した(Matsumoto, Okubo, and Nishino 2004)。量子コンピューターは、量子力学の世界における波動関数の重ね焼きを利用する(西野1999)ため、膨大な計算量の並列計算を要求する人間の言語活動のモデル化にも有用であると思われる。この論文は、量子コンピューターの強力な計算力を、言語獲得を実現するニューロイダル・ネットヘ適用する可能性を検討したものである。 また、目標として掲げた、言語獲得の「動詞-島(Verb-Island)」段階以降のシミュレーションについては今年度中の達成は残念ながら断念せざるを得ない状態である。成人の文法に見いだされる句構造(統語範疇に依存)を前提にした状態で、対格型のリンキング(他動詞文における文法関係の付与)を最適性理論に基づいて導く研究論文を目下書き進めている所である(中村印刷中も参照)。具体的には、Dowty(1995)やAckerman and Moore(2003)が展開したプロトロール理論に基づき、相対的な重みづけを受けた意味特徴の束として文法関係を導くことを構想している。 最後に、今年度は、横山・内田・中村・川島他(2004a,2004b)において、第一言語(母語)と第二言語の相違を踏まえて、文を理解するプロセスを脳機能画像法(fMRI)によって検証した。
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