研究概要 |
本研究では,認知意味論の枠組みを使って,ハンガリー語の動詞接頭辞の多義性とその意味構造を明らかにすることを試みた.成果として,次のような知見が得られた. ・動詞接頭辞という文法カテゴリーは,プロトタイプ的なカテゴリーを構成する. ・動詞接頭辞の多様な意味は,プロトタイプ的なカテゴリーを構成する. ・動詞接頭辞のプロトタイプ的意味は,中心イメージ・スキーマあるいは基本イメージ・スキーマとして記述可能である. ・動詞接頭辞の多義的な用法は,基本イメージ・スキーマの変換という意味拡張プロセスによって説明することが可能である. ・イメージ・スキーマ変換による意味拡張を引き起こす要因には,比喩(メタファー,シネクドキー,メトニミー)が関連している. ・イメージ・スキーマを使った分析により,複数の異なる意味の関連性を図式化することができる. ・ハンガリー語教育の観点からは,個々の動詞接頭辞のプロトタイプ的意味とそこから意味拡張された主な意味を提示し,それらの関連性を示すことによって,統一的な理解が可能となり,習得の助けになると考えられる. ・動詞接頭辞が有する完了アスペクトを付与する機能は,経路の終端焦点化という認知プロセスによってもたらされたのではないかという仮説が得られた.これを検証するためには,動詞接頭辞の意味と用法をディスコースのレベルで分析する必要がある. ・「前後」や「上下」といった空間関係は,人間の身体性に起因するものである.それが言語の構造と深く関わっていることのヒントが得られた.身体性と言語構造との関係を明らかにするためには,動詞接頭辞だけでなく,また,ハンガリー語に限らず,空間移動表現に関わるあらゆる言語現象についてさらなる研究を行う必要がある.
|