本年度の研究においては、昨年度の研究で得られた知見に基づき、ルカイ語を中心とする台湾原住民諸語の形態・統語に関する口述資料の収集と分析および文献資料の分析を行った。昨年度の調査・分析により、台湾原住民諸語(公式には現在12言語が認定されている)の中で、ルカイ語は類型的に他の諸語とは異なる特徴を持つことが明らかになり、その相違性はヴォイス交替や能格性・対格性において顕著であることから、これらの事項に関する資料を特に得るべく質問票を作成し、現地調査によって母語話者に対応する文の作成や文法判断をしてもらう形(質問法)をとって口述資料を収集した。これまでに得られた資料を分析する限りにおいて、ルカイ語は他の台湾原住民諸語と異なり、明らかに対格型の類型的特長を持つことがわかり、他の諸語が持ついわゆるフィリピン型のヴォイス体系とは異なるヴォイス体系を持つことが明らかになった。一方で、他の諸語との形態的・統語的類似性も濃いことから、ルカイ語がこのように能格性・対格性やヴォイス体系において他の諸語と異なる要因について共時的・通時的に考察する必要がある。次年度の研究では、特にこの点を明らかにすべく、これまでの調査で欠如あるいは不足している資料を引き続き現地調査により収集・補充しつつ、ルカイ語とパイワン語など他の諸語とを比較・対照する形で分析・考察し、台湾原住民諸語全体の形態・統語に関する類型的特徴を明らかにするとともに、諸語間の類似性と相違性について体系的に理論化し、研究成果をまとめたい。
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