本研究最終年度にあたる本年度は、これまでに収集した台湾原住民諸語の言語資料の整理と分析を体系的に行うとともに、現地調査による資料収集も引き続き行い、ルカイ語を中心に記述を行った。そのうえで、他の台湾原住民諸語、および系統的・類型的関連性の高いフィリピン諸語との比較・対照を通して、ヴォイスと能格性に関する考察を行った。具体的な研究実績は以下のとおりである。 (1)台湾原住民諸語の形態・統語に関する言語資料の収集と整理・分析および考察 前年度までに収集した言語資料の整理と分析を引き続き行いながら、分析の結果新たに必要となった現地調査により収集した。これらの資料を整理し、台湾原住民諸語、特にルカイ語の形態・統語および談話についての記述を行った。 (2)台湾原住民諸語の類型化とフィリピン型諸言語との比較・対照 資料の分析を通して、台湾原住民諸語および、系統的・類型的関連性の高いフィリピン型諸言語との比較・対照を通して、これらの諸言語におけるヴォイスや能格性に関する考察を行った。その結果、ルカイ語は他の台湾原住民諸語とは異なり、フィリピン型ヴォイス交替がなく、能動・受動の対格型ヴォイス体系に近い形であるということがわかった。一方、ルカイ語以外の台湾原住民諸語は、程度の違いはあるものの、フィリピン型ヴォイス体系を持ち、能格型に近い格体系を持つことがわかった。 (3)台湾原住民諸語およびフィリピン型諸言語のヴォイスや能格性に関する統一的理論化の試み (2)により、台湾原住民諸語内でヴォイスや能格性に変異があることがわかったが、このような変異を統一的に説明する理論化の試みを行った。他のフィリピン型諸言語においても、ヴォイス交替の程度や能格性には変異があることから、ルカイ語などのヴォイス体系はフィリピン型体系の縮小として捉えることができ、他の変異についてもこの縮小という概念で統一的に捉えられるという結論に至った。
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