研究概要 |
本研究の目的は、文中ポーズ挿入に伴う声の基本周波数の変化の実態を音響学的に解明し、すでに明らかにされている発話の時間構造の変化との関連において、ポーズ現象を総合的に捉えることである。 研究代表者による先行研究の結果、文中にポーズを入れた発話においては発話部分の時間構造に種々の特徴的な変化が現われることが明らかにされている。そこで、本研究では、発話のもうひとつの重要なパラメータである声の基本周波数について、文中ポーズ挿入の影響に関する分析を行い、ポーズが発話の時間構造とピッチ構造という2つの側面におよぼす影響を比較することを目的とした。 本年度は、各話者の発話データについて、声の基本周波数の時間変化を計測し、発話文中の位置(文頭、ポーズ位置前後、文末など)によってポーズの影響がどのように特徴的に異なるかを解析した。その結果、ポーズ挿入による声の基本周波数(F0)の変化は、文中ポーズの前後の数モーラにわたって観測されるが、その他の発話部分にはほとんど影響がみられないことが明らかになった。また、ポーズを伴う発話ではそうでない発話と比べて、ポーズ位置の前でF0がより低く、ポーズ位置の後ではより高くなることが確認された。さらに、このポーズによるF0の変化の度合いは、ポーズ位置に近いモーラほど大きいという特徴を示すことも明らかになった。 音韻境界におけるピッチのふるまいについての音韻論的な記述は多いが、音声学的に声の基本周波数の変化をポーズとの関連において発話レベルで詳細に解析した報告はない。今後は、これまでに得られているポーズの時間構造への影響と比較対照させ、これら2つのパラメータの変化がどのように相互に関与しあっているかを明らかにしながらポーズ現象の本質を明らかにして行きたい。 なお、本研究の成果は、37th Colloquium of Linguistics (Jena, Gemany)において口頭発表すると共に、富山県立大学紀要13巻(2003年)に論文として掲載された。
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