研究概要 |
本研究の目的は、文中ポーズ挿入に伴う声の基本周波数の変化の実態を音響学的に解明し、代表者の先行研究によりすでに明らかにされている発話の時間構造の変化との関連において、ポーズ現象を総合的に捉えることである。 昨年度は、ポーズ位置前後の声の基本周波数の計測に基づいて分析を行い、(1)ポーズ挿入による声の基本周波数(FO)の変化は、文中ポーズの前後の数モーラにわたって観測されるが、その他の発話部分にはほとんど影響がみられないこと、(2)ポーズ位置の前でFOがより低く、ポーズ位置の後ではより高くなること、(3)ポーズによるFOの変化の度合いは、ポーズ位置に近いモーラほど大きいことなどの点を明らかにした。 今年度は、これらFOに関する結果を、代表者の先行研究から得られている発話の時間構造に関する結果や母音のホルマントの変化とつきあわせて分析・考察を行った。最も興味深い知見は、FOに対するポーズの影響がポーズ前後の数モーラにおよぶのに対して、モーラ長や母音のホルマントに対する影響は基本的に1モーラに限定して観察されるというように、音響パラメータの違いによってポーズの影響が特徴的に異なるという点である。発話の境界付近における発話の伸張とピッチ変化の関係については、前者が後者に依存するという考えと両者は独立であるという考えがあるが、本研究より得られた結果は、発話の時間構造の調節とピッチの調節は独立のものであるという立場を支持するものと言える。このような基礎的知見は、発話生成の理論を構築する際の基盤を提供するものと考える。 なお、今年度の研究の成果は、ICPhS(International Congress of Phonetic Sciences, Barcelona, Spain, Aug.2003)において口頭発表した。また、富山県立大学紀要14巻(印刷中)に論文として掲載される予定である。
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