研究概要 |
主要言語にかたよりがちなロマンス語研究を見直し,新しい方法論の確立を具体的に推進しようという本研究課題も,最終年度を迎えた。最初の2年間は,イタリア語学・ロマンス言語学を専門とする菅田茂昭教授(現在名誉教授)を代表とするプロジェクトだったが,教授の退職後は,共同研究者である遠山一郎と瀬戸直彦が,それぞれ自分の研究領域において,ロマンス語研究の新しい方法論を確立するという展望のもとに調査を行い,フランスの研究機関あるいは日本の大学において開催された研究集会を舞台にフランス語を用いた研究発表という形で,ひとつの結論を導くことになった。 遠山一郎は,ロマンス語のもととなったラテン語のデポネント動詞(形式所相動詞)の代表格であるvideorを,ラテン語の動詞体系から見直した発表を行なった(Conference organisee par le Centre Alfred Ernout de "linguistique latine")。フランス語voir,イタリア語vedereなど,ロマンス語の動詞の根幹をなすといってもよい,インド・ヨーロッパ語の語根までたどることの可能な,意味的にも形態の上でも重要な動詞である。 瀬戸直彦は,昨年度に引き続き,北部ロマンス語であるオック語とオイル語(フランス語)の資料をもとに,中世の聖ヴー伝説を題材に,vout, vot, vult, vutというラテン語VULTUSから派生した語彙について研究を進めた。ルッカにある聖ヴー(聖なる顔)伝説(彫像)と,これを結びつけて,16世紀のフランス語では「祈願」voeuxと混同されることもあったその理由を立証した。 最初の2年間は,菅田教授は精力的にサルジニア語の方言を研究され,現地に赴き実地調査をされたり,日本で始めてのサルジニアにおける言語と文化を題材にした国際シンポジウムを開催された。とくに少数ロマンス語の研究という意味できわめて意義深い研究となったといえよう。残った遠山と瀬戸は,残りの2年間を有意義に利用して,それぞれ,ロマンス語におけるトピックを,旧来の方法のみに依拠することをせず,新しいコーパスを開拓し,また設定することによって,また電子テクスト(オック語におけるCOM2=Concordance de l'occitan medieval 2 edite par Peter T. Ricketts)を利用することによって,少数ロマンス語の,現代における研究上の意義を探ることに腐心した。
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