研究概要 |
前年度にフロリダ大学で録音した成人男性アメリカ英語話者3人の発話を使った知覚実験の結果は、テネシー州ナッシュビルで開かれたアメリカ音響学会と関西大学で開かれた日本音声学会で発表したが、音声刺激の一部に音質に問題があることが海外共同研究者より指摘されたため、オーバーン大学で新たに音声刺激を録音して、その後の研究を続けることにした。成人女性アメリカ英語話者3名の発話を音声刺激にした。日本国内の学習者と英語学習暦が異なるアメリカ在住の日本語話者を一定数以上確保するのが困難という判断から、この後の研究は日本国内の英語学習者のみを対象とすることとした。被験者15名を集めたが、すべての実験に参加したのは10名であった。各被験者は、(1)異なる子音環境における英語の母音対立の識別、(2)異なる子音環境における英語の母音の同定実験、(3)異なる子音環境で発せられた英語の母音の日本語母音カテゴリーに基づく分類、(4)異なる子音環境での英語の母音の生成、の4つの課題を行った。このうち(4)は、データ収集のみを終了し、分析は次年度行う予定である。(1)〜(3)の結果の中間報告として、テキサス州オースティンで行われたアメリカ音響学会で発表した。後続の子音として閉鎖音、/n/に/l/も加えたが、一般的な傾向として、閉鎖音が後に続く方が、/n/,/l/が続く場合よりも識別は容易であるようである。また、/i/は/CVn/,/CVl/の環境では/I/と知覚される傾向が強いが、そのことによる/i/-/I/の識別難易度への影響は、先行子音が/k,g/の場合のみ見られた。また、/i/が日本語の短母音「イ」に分類されるのは、無声閉鎖音が後に続く場合に多く見られるが、/CVn/,/CVl/の環境で/i/が/I/と知覚されても日本語の母音カテゴリーでは長母音「イー」として分類されることが多く、先行研究の報告と必ずしも一致しない結果が見られた。
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