研究概要 |
本年度は計画最終年度であるので、前年度までの研究成果を取りまとめ、最終報告書を準備した。具体的には1)『聖杯の探索』Demanda do Santo Graalについては,前年度作成された、Bogdanowのエディションの古仏語オリジナルが存在する部分と中世ポルトガル語テキストの対照表に関し,体系的な比較が可能になるよう,対象の単位を組み変えるなどした表を複数作成し直した後,言語特徴を分析し、考察した。対応する部分を取りまとめ,文脈なども含めて総合的に対照することも可能である.分析結果は,最終報告書の一部として公刊されるが,両テキストには,明らかに形式的に1対1で対応していることがはっきりしている部分と,ある種の意味のまとまりの単位で対応し,場合によっては文全体の構成が異なる場合などがある.中世における翻訳のプロセスを明らかにするが,同時にフランス語からポルトガル語へ訳されたことをテキスト自身が明らかに示していると言える.中世のスペイン語とポルトガル語には年代記などの一部に,どちらがどちらへ訳されたかはっきりしていないものが存在するが,このようなパソコンによる完全なデータ比較という手法を適用した分析はまだ行なわれていない.今後の興味深い課題である.2)『ヴェスパシアヌスの物語』Historia de Vespasianoに関しては、言語特徴の分析を継続し,スペイン語版オリジナルに近いテキストとの対照を試みたが,スペイン語テキストの電子化がまだ行なわれていないので、体系的な比較には至っていない.しかし、言語特徴の年代的性格を明らかにするため,ポルトガルのリスボン大学による中世語データベースを用い、言語特徴の時代的分布、広がり等についての研究を開始した.特に,完了形に関しては,水沼修の研究の指導を通じて確認されたように十分有効な成果が得られている.この研究も最終報告書に公刊されている.
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