東洋の「色彩」とそのイメージ研究の一環として、日本と中国の古典詩歌に見られる色彩語彙ならびに色彩表現について調査研究した.日本の場合は『万葉集』、『古今和歌集』における色彩名について考察した。その結果、日本の古典的な歌集に見られる色彩名は「白」系と「赤(紅)」系に集中する傾向が見られた。中国の場合は『詩経』と『唐詩選』について調査した。その結果は「白」系、「黄」系、「赤」系、「青」系の他にも、「黒」系、「金」系など、特定の色彩に集中することなくさまざまな色彩名が見られ、またその他「緑」系、「紫」系なども使用されており、実に多彩であることが明らかになった。また、そうした色彩名が修飾している名詞等についても考察した結果、日本の場合は『万葉集』においては多様な組み合わせが見られるのに対して、時代が下るにつれて組み合わせが限定されていることが分かった。こうした傾向は和歌の世界で「本歌取り」の手法が一般化するとともにさらに強まっていくものと思われるので、さらに『新古今和歌集』についても調査検討して確認した。その一方で、中国の場合は『詩経』と『唐詩選』では色彩名とその被修飾語の組み合わせはかなり違っているので、この問題もさらに調査して検討する必要が感じられる.また個人的な色彩感覚の差異についても知る必要があると思われ、李白、白居易について調査した。さらに日本への影響について調べるために藤原公任の家集『公任集』ならびに藤原公任の撰による日本と中国の詩歌の詞華集『和漢朗詠集』等について調査し検討した。その成果の一部は2003年8月にポーランドのワルシャワ大学で開催されたヨーロッパ日本研究協会第10回大会において発表し、その要旨は"Book of Abstracts of the 10th International Conference of the European Association for Japanese Studies"に掲載された。
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