14年度には『新編国歌大観』のCD-ROM版を用いて『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』における色彩語彙の頻度と色彩のイメージについて考察した。その結果、日本の古典歌集においては、色彩名は「白」「赤(紅)」が中心であり、時代が下るにつれてその傾向が強まることが明らかになった。また、日本の詩歌に影響を与えた中国の古典詩歌について、『詩経』『唐詩選』の色彩語彙について考察した。その結果、中国の古代詩集においては、「白」系が多いのは日本と似ているが、「黄」系、「青」系、「赤」系、「黒」系、「金」系などと種類も多く、頻度も極端には減らない。この成果は15年度においてポーランドのワルシャワ大学で開かれたヨーロッパ日本研究協会の第10回大会において発表した。15年度にはさらに日本と中国の色彩感を明らかにするために両国の隠者文学から陶淵明と西行を選んで、両者の作品に現れた色彩語彙(色彩名と色彩語)について考察した。両者は「白」系の色彩を中心として使っているが、西行が「月」や「桜の花」に仏教的悟りを象徴させているのに対して、陶淵明は「白髪」や「霜」「雪」など、生活の苦しみを反映させているという違いが見られる。16年度にはフランス文学の中から象徴派詩人を選び考察した。また、日本の象徴派詩人から中原中也を選び、その色彩感覚をフランス象徴は詩人と比較して考察した。両者の色彩表現には「青」と「黒」を基調とするという共通点が見られた。それらの色彩は「空」や「虚無」「闇」など宗教的テーマとつながるものが多い。以上の研究から、日本と中国の古代詩集ならびに隠者文学においては色彩表現はかなり違うこと、またフランスと日本の象徴派詩人においては色彩表現が似ていることが分かった。色彩表現は歴史的、伝統的なものであるとともに、時代によって変化し、また思想の反映であることが明らかになった。
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