1 満洲建国は以前からの「赤い夕日」「大陸浪人」という満洲イメージを強化したが、そこにバイコフは新たな「密林」イメージを付与した。「密林」イメージは森林に親和的な日本人の心性と合致し、更に「虎」のいる「密林」イメージは日本国民の満洲への憧憬を高める結果となったことを指摘した。 2 『偉大なる王』の水平的・垂直的空間構城意識を明らかにした。また、作品内に於いて、密林の真の王者は虎の王大ではなく、長老・柊利であり、その人物像は日本人の倫理観に合致していることを指摘、この小説が満洲の支配を欲する日本人の心性と結びつきやすいと論じた。 3 満洲の白系ロシア人文学、特にボリス・ユーリスキーの作品との比較において、バイコフ文学のテーマの特異性が明らかになった。 4 バイコフの訪日報道等から、基本的にバイコフは満洲の理想を純粋に信じ、白系ロシア人救済の場として考えていたことが再確認された。図らずも結果的には日本帝国主義の広告塔としての役割を果たしていたのである。しかし、バイコフのロシア語寄稿記事を調査した結果、日本に対するバイコフの二面性も少なからず存在していたことが明らかになった。 5 未だ翻訳されていない『黒いカピタン』のロシア語原書を発見した。長編であり、従来の動物文学ではなく、歴史観や社会観が表出されている、という風評がある。満洲末期のバイコフの心理を知るためにも、今後、その世界を検証していきたい。また、翻訳をして、公にしたいと考えている。そして、オーストラリアの遺族と会い、晩年のバイコフの日本に対する心境を取材し、これまでの研究成果をまとめたいと考えている。
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