今年度は初年度のため、研究状況の把握と第一次史料の所蔵調査及び収集に努めた。 欧米の研究状況については、ドイツ・ミュンスター大学の「実務的文書主義」(pragmatische Schriftlichkeit)をめぐる大規模研究プロジェクトの研究成果を網羅的に調査し、そこで明らかになったことと、なお残されている課題について検討した。この問題については、同プロジェクトに属する研究者の主な業績、及びその枠内で開催された4回の国際シンポジウムを紹介する論文を執筆した。またこのドイツの研究状況に加えて、ディプロマティックスから出発しつつ、人類学的な見地やコミュニケーション理論にもとづく関心から進められている英語圏やフランス語圏の活発な研究状況についても検討した。いずれの研究領域においても、文字の利用が、同時に儀式的・象徴主義的なコミュニケーション構造と密接に結びついている状況について、興味深い視角を確認することができた。 第一次資料の調査については、まず、ロンバルディーア諸都市の都市法のテキストをできるだけ収集することに努めた。この地域においては、とりわけ13世紀以降実務的な文書の数が爆発的に増えたため、本来文書館における長期の調査が必要であるが、それでも文書の作成・利用・保管について定める都市法の第一次史料は研究の不可欠の土台となる。本研究の中心となるはずのドイツについても、いくつかの都市の史料状況について研究した。とりわけ、(それ自体は良く知られていたことであるが)ニュルンベルクやレーゲンスブルクの先進的な都市の文書の存在様式について、概観ができたことは収穫であった。そのため、ドイツ(ベルリン)で、国立図書館写本部に収集されている中世文書の調査も行なった。
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