研究課題
基盤研究(C)
本研究は、「無名契約」が紀元後6世紀の時点で契約とさていたことについては争いがないものの、6世紀という時点において「無名契約」に含まれる具体例すべてが同時に契約として承認されたのか、そうでないとすれば、いつごろ、どのような行為が、なぜ契約的保護を受けることになったのかなどについては、必ずしも一致した見解に到達していない状況に鑑み、19世紀以来の近代ローマ法学による「無名契約」研究の成果に充分配慮しつつ、ローマ契約法の全体像の再構成の可能性を探ることを目的とした。その結果、第1に、非法律史料をも考察の対象に入れることにより、「無名契約」を構成するとされる4類型は、紀元前後ころから3世紀ころにかけて、それぞれ具体的経済活動と法的枠組みを背景としつつ新たな法的保護を与えられたことがより明らかとなった。第2に、理論的観点からは、「無名契約」が個別に法的承認を受けていくことは、紀元前3〜2世紀以降個別的、限定的に法的承認を受けた諾成契約のあとを継いで、伝来のローマ契約法の基本観念を崩す方向性をさらに一歩進めたと考えられる。すなわち、「無名契約」においては、(1)要式性を要求されないこと、(2)契約-訴権-方式書という個別関係性が薄められたこと、の2点において、そのように言われ得るが、しかし、(3)先履行性が要求されることが大きな特徴として登場する側面も見逃されるべきではない。第3に、しかし、伝統的には、いわゆるローマ契約法に包摂されて説明されることのない制度であるものの、ローマ国家内の地域によっては「契約」と考えられていた制度(例:婚姻)の存在とその解明という問題が新たに登場した。しかし、これは別の機会により深めることとせざるを得なかった。
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