本年度は、法的判断、事実認定等に関する内外の出版物を収集し、法的判断の構造を測定するために、各種の調査を行った。 まず、裁判官経験者のもとに出向いて、法的思考および事実認定についてインタヴューを行った。具体的には、元裁判官の方の事実認定についての考え方や、事実認定が困難であり印象に残っている事案について詳しく話を聞いた。次に、一般の人が、法的思考や事実認定をどのように考えているかの手掛かりをえるために、香川大学法学部所属の3年次および4年次生を対象にアンケート調査を行った。調査においては、被験者が民事事件について加害者に負わせるべきだと考える責任の程度を、内容の異なる5つの事案を使用して比較した。使用した事案は、(1)交通事故で被害者に持病があった場合の賠償額、(2)交通事故で被害者の性格が影響している場合の賠償額、(3)不動産売買における責任の帰属、(4)公害事件で、公害発生の原因がある企業の規模に格差がある場合の賠償額、(5)公害事件で、公害発生の原因がある企業が以前にもトラブルがあった場合の賠償額、である。これらは民法上議論となる事案であり、法的責任の帰属のされ方が一般人の感覚と異なる可能性が強い事案である。ただし被験者が法学部生であったことも影響してか、一部の被験者には法的思考の程度の強いものも見られ、実験者が予測していた程強い較差はみられなかった。それでもなお、法律専門家と非法律専門家の間には、責任に関する事実認定の仕方に差があることが推測された。
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