まず法律の専門家とシロウトの意思伝達方法に関する研究が、どれほど普遍性を持っているかを確かめ、また海外における研究の最新の情報を得るために、LSAの年次大会で報告を行った。本報告に対する関心はアメリカにおいても高く、活発な質疑応答を行うことができ、多くの知見を得ることができた。 次に、法律の専門家と法律のシロウトの思考および推論方法を対比するモデルを作成するために、多重債務問題を取り上げて、インタビュー調査を行った。調査期間は平成15年度6月から7月、調査対象は法律のシロウト3名、法律の専門家5名である。法律の専門家として当初は元裁判官を予定していたが、複数名から協力を得ることが極めて困難であったため、弁護士を対象とした。その結果、(1)法律専門家に比べると、法律のシロウトは少ない次元で問題を是非を判断していること、および(2)素朴な道徳的価値観の影響を受けやすいこと、が明らかとなった。 さらに法律のシロウトの思考・推論方法の特徴を一層明らかにするために、グループ・インタビューを行った。調査期間は平成15年度12月、調査対象は香川県在住の有権者男女3名ずつ計6名の法律のシロウトである。グループ・インタビューでは、(1)被験者各人に、法的な問題についての経験を尋ねた上で、(2)近隣訴訟の事案、および(3)不動産の賃貸についての事案を示し、それぞれについてどのように考え、評価するかを詳細に渡って質問をおこなった。その結果、(1)法律のシロウトは、そもそも法的な問題と認識する場面が少ないこと、(2)法的な問題であると認識しても損害賠償請求という形で訴訟をすることに違和感を感じるケースも多いことなどが明らかになった。
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