○研究資料の収集および整理 研究課題の中心問題に関わる資料の収集を「大公アウグスト図書館」(ヴォルフェンブッテル)において行った。主に、中世および近世中央ヨーロッパにおけるフェーデおよび血讐とその処理に関するもの。フェーデおよび血讐は、権利要求に基づく紛争と共に、非行・不法・犯罪を含んでいる。とくに中世・近世都市における事例をできる限り多数集め、その処理方法を記した「ウァフェーデ(復讐断念の誓約)」の文書の収集にあたった。 ○研究の進展 次の3点について研究を進めた。(1)中国清代の訴訟においては、相手当事者による不当で、横暴な請求(「欺圧」)に対して他方当事者が自己の側の悲惨な状態(「冤抑」)をうったえ官憲による「懲戒・伸冤」を申し出る構図が存した。官憲の介入の程度問題はあるにせよ、例えばヨーロッパ初期社会を含め、広く世界の訴訟法史において見いだされる現象と考えられる。必ずしも中国法史に特有なものとはいえないものがある。 (2)ヨーロッパ中世初期、フランク時代の部族法典には「人命金・贖罪金」と「公的刑罰・換刑贖罪金」とが区別されている場合があった。このことから、「贖罪金から刑事刑(公的刑罰)へ」といった刑法の発展図式(通説)には再考の余地がある。もう一つ、これに関連するのは中国秦漢時代における「贖刑」の刑罰であり、そこに共通性がある。 (3)ヨーロッパ中世初期における教会贖罪書には、幼児が両親、とりわけ母親と共寝して圧死する事例が挙げられ、これに対する贖罪の方法が規定されている。この事例は、母親による過失として捉えるべきか、殺人としての故意行為として見るべきなのか、当時聖職者の間で論議が交わされた。ここには、中世初期刑法の重要問題が浮かび出ている。
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