イスラームにおける人間と人権について、クルアーンにおける人間観、クルアーンにおける人権観を、現在のイスラーム世界を代表する学者の見解、シリアのアレッポを中心とした専門家との意見交換を踏まえつつ明らかにした。人間観については性善説にも性悪説にも偏らない人間観のあり方が、「アッラー」との対比の中で具体的な形で明らかになった。人権観については、「人問であるというただそれだけの理由で守られる人権」の根拠と論理、そしてその重要性が明らかになった。さらに、現在のイスラーム社会が抱える理想との乖離という問題についても考察を進めることができた。 また、本研究が契機となって、イスラームそのものについて、「伝えられるレベル」「現実のレベル」「教えのレベル」という3つのレベルのイスラームを念頭においたアプローチの必須性、あるいは「13億人の教え」「一神教の最終形態」「古くて新しい教え」という3つの切り口からの説明方法などがより明確に整理できたのも、成果といえる。 さらに、アッラーという主に教えられ、アッラーという主に向かう存在という性質「ラッバーニーヤ」の概念が、明らかになった。イスラームにおける人間観、人権観の把握には不可欠の概念である。それは、近代のキリスト教会否定の後「主」を見失っているヨーロッパ世界及びそこから社会思想の点で影響を受けたすべての地域における「人間」及び「人権」に対して、時代性や地域性にとらわれない確実な人間論、人権論を構築する手がかりにもなりうる。イスラームの教えにおける人間と人権の研究が、単にイスラーム圏の地域研究のものでないことも明確にできたのではないかと考えている。 なお、本研究の成果は慶應義塾大学出版会より『イスラームにおける人間と人権』(仮)という単著にて9月に出版される予定である。
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