今年度において実施された研究は、主として、(1)戦後ハンガリー憲政史の総体的再審、(2)1956年ハンガリー革命に関する新資料(ロシア語、ハンガリー語)の収集と分析、(3)1989年革命に関する資料収集と分析、(4)哲学者G.ルカーチの政治思想の再評価、(5)国法学者I.ビボーの著作収集と学説評価の5つの分析軸によって構成されるものであった。これらの相互連関の上における総体像が、本研究課題の核心となることは言を待たない。 ハプスブルク帝国、そしてオーストリア=ハンガリー二重帝国の後継国家の一つとしてのハンガリーは、20世紀においてきわめて顕著な国制変容を継起的に受容している。しかも20世紀後半期は、ソビエト型社会主義体制下にあって、幾多の改革、そして革命をさえ試行した点において、東中欧諸国中にあって際だった特質を有している。したがって標記の研究の諸文柱それぞれが、すぐれて論争的課題であると同時に、これまで資料面での制約等から、殆どその本国においても未解明の状態にあった。そこで本研究においては、ハンガリー語、ロシア語等による第一次資料を収集、整序した上で、歴史の再構成に基づく理論構築を行うことに努め、併せてルカーチ、ビボーという20世紀ハンガリーを代表する政治思想を再評価することによって、国制史を全体像として捉えることを試みている。 平成15年10月に実施したハンガリーにおける研究レヴューに際しては、科学アカデミー法学研究所のV.ラム教授、パズマニー・ペーテル大学法学研究所のC.ヴァルガ所長、科学アカデミー政治学研究所のL.ケーリ博士等との間に研究懇談を行い、本研究に対する積極的評価と研究上有益な助言を得ることができた。その際に法学研究所書庫において発見したI.コヴァーチ博士(憲法学・前法学研究所長)の大部の遺稿(上下2巻から成る草稿)は、本研究の今後の展開にとって枢要の地立を占めるものと確信している。
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