研究概要 |
1999年に制定された男女共同参画社会基本法は,「積極的改善措置」の導入に言及している。諸外国においては,過去の差別の弊害を除去するための様々な積極的な差別是正措置が講じられてきたが,日本の憲法学は,そのような措置に対して,必ずしも肯定的・積極的な評価を下してきたわけではなかった。なぜなら,個人の尊厳を中核に据えた近代立憲主義に立脚する日本国憲法の下では,そのような積極的差別是正措置が,憲法の基本原理である個人主義や形式的平等原則に抵触しうると考えられてきたからである。とはいえ,日本が現実に,「積極的改善措置」を導入するに至った以上,その憲法論上の位置づけを明確にすることが求められている。本共同研究は,積極的改善措置の憲法論上の位置づけを明確にしつつ,真の男女共同参画社会へソフト・ランディングを可能とするような実践的提言を行うことを目指して開始された。 研究初年度(平成14年度)は,積極的差別是正措置についての基礎理論的研究,ジェンダー論にもとづく法的基礎理論の構築,本研究の比較憲法的視座のための分析枠組の構築,共同参画社会の社会像についての研究,日本の各自治体における共同参画推進条例の分析等に従事し,その結果,本研究の基本的な視座と方法論を確立し,さらに,日本において真の「男女共同参画社会」を実現するために取り組むべき課題を明らかにした。 平成15年度は、積極的差別是正措置についての比較憲法的研究,積極的差別是正措置の法構造についての研究,共に近代立憲主義の母国でもあるアメリカとフランスについての研究,積極的是正措置と能力主義との理論的関係などの研究に従事した。 以上の研究成果にもとづき,本報告書は,次のような構成となっている。まず,積極的差別是正措置についての世界の動向と日本の課題を明らかにする(辻村報告)。次に,アメリカとフランスにおいての,積極的差別是正措置の憲法論上の位置づけを解明する(蟻川報告,山元報告)。その上で,日本において積極的差別是正措置を導入する制度を設計するための具体的・実践的検討の在り方を、提言する(中林報告)。
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