研究概要 |
平成14年度に予定されていたのは,フランス人権理論の変容に関する基礎的研究であった。本年度に明らかにしえたことは,ヨーロッパ統合の更なる深化に伴う重要な変化,具体的にいえばヨーロッパ連合基本権憲章の採択(2000年12月)に伴って,フランスにおける人権をめぐる理論的状況は,ラディカルな転換期を迎えつつあるということである。従来のフランスにおける人権領域における基本的観念は,行政裁判所によって保障される「公の自由」であった。ところが,最近フランス憲法では,このようなフランス実定的制度と深く結びついてきた「公の自由」は次第に用いられなくなり,それにかわって,「基本権」ないし「基本的自由」の観念が用いられるようになってきている。これは,隣国ドイツ憲法において発展してきた用語が,フランスの憲法裁判機関である憲法院においても「基本権」という観念が用いられるようになったものであり,このような傾向が学説にも大きな影響力を与えている。このような状況の中で,学説においては主に,1.法実証主義的立場に立って,立法に優位する規範によって保障される権利を基本権と捉えるべきだという立場と,2,人格的価値を手がかりにして,基本権観念を構成しようとする立場などがあらわれてきている。 さらに,本年度においては,海外共同研究者との緊密な協力関係の下で,モンプリエ第1大学法学部で行われている人権の教育の現状について調査を行った。具体的には,憲法担当の教授,EC法担当の教授及び助教授,私法担当の教授の4名に面会して,人権について授業の中で具体的にどのように取り上げているかについて質問をした。さらに,モンプリエ第1大学とグルノーブル大学において助手ないし副手として大講義室における授業を補充する目的で1年次から4年次までの学生のために設定されている少人数の双方向型授業(Travaux diriges)の担当者2名から実際の教材の提供を受けて,その内容と授業における具体的な活用の仕方について,説明を受けた。
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