研究概要 |
平成15年度は,フランスの人権理論の変容についての本格的な研究を遂行することが予定されていた。そのために,憲法理論関係,行政法関係,EU法関係,国際法関係等の多岐にわたる文献を入手し,それらに検討を加える作業が行われた。 その結果究明しえたことは,現在フランスの人権理論は文字通りの転換期にあり,行政判例を中心に積み上げられてきた「公の自由」を中心とする従来の人権保障体系がEU法の影響下,および憲法院の活性化現象に伴って大きく変動しつっある。その際特に問題となるのは人権の私人間効力に関わる議論であり,フランスの憲法学は,ドイツ憲法学の基本権論の議論状況に刺激を受けながら,人権が私人間に適用されることが本則化しつつあるように見える。この論点は,憲法と実定法諸領域,とりわけ憲法と民法の関係をどのように捉えるかについても大きな意味を持った議論へと広がっていくものであり,大いに注目に値する。 また,本年度は,海外共同研究者との関連においては,まず,法曹養成機関の法学教育における人権の位置づけと教育の実態について,9月に現地調査を行った。フランスでは日本と異なり,法曹2元制が採用されているため,モンプリエの「弁護士地域養成センター」のペルディエ所長と面談を行い,現在の弁護士養成システムにおいて,どのように人権教育が行われているかについて説明を求めた。それによると,今日なお「弁護士地域養成センター」では,大学の研究者等が一定の講演や特別授業を行っているだけで,体系的な教育を行ってはいないことが判明した。 さらに,大学の法学教育としての人権のカリキュラム編成・教材開発のありかたについて,海外共同研究者であるヴィアラ教授の助言を受けつつ調査を行った。具体的には,グルノーブル大学で教育助手を務めるジメノ氏から,大学の学部レベルでの教育のあり方についての聞き取りを行い,また実際の教材の作成とその活用について教示を受けた。
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