研究概要 |
最近の憲法学における人権の私人間効力に関する論議のありよう,また民法学における憲法と民法の関係についての論議の諸相を点検すれば,革命以来のフランスにおける憲法像・人権像をどのようなものとして理解するか,が議論の焦点をなしていることが明らかとなる。そのような日本の憲法学・民法学の理論的関心を踏まえながら,最近のフランスの人権論の新展開を跡づけたのが本研究の第1部である。その研究成果としては,一般の予想に反して,フランスでは人権は対国家的なものに限定されて観念されるべきではなく,対私人的な効力も有するものだと考えられていること,しかもその際問題となる人権規定は,ヨーロッパ人権条約も念頭におかれて議論されていること,まさしく,このような文脈の中で,フランス法において改めて公序についての関心が高まっていることを解明した。 第1部の理論的な解明を踏まえて,フランスの法学教育における人権教育のあり方について,その射程と方法に注目しつつ検討したのが,第2部である。そこでは,現在のフランスの大学教育において,人権関係科目は学年進行に応じて科目名や内容にヴァリエーションを伴いながらも,常に中心科目の1つとしての位置づけを得ていることが明らかになる。弁護士養成地域センターの入試科目から明らかなように,人権はフランスでは今日極度に学際的な科目として現われている。最後に,大学学士課程の教育実践としての補習的演習についての教育担当者のインタヴューと教材の分析を行うことによって,教育方法の一端を明らかにした。 また,補充的研究においては,人権の裁判的救済を行う役割が期待されている裁判官論についての最近のフランスにおける変容を明らかにした。
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