1 現在のアイヌの人口は、約2万4千人から5万人の間とされており、北海道各地に散在しているほか、東京や関西にも居住している。1997年にアイヌ文化振興法(いわゆるアイヌ新法)が制定され、民族としての誇りが尊重される社会を実現するために、アイヌ語の普及をはじめとするアイヌ文化の振興策が国および指定地方公共団体(現在は北海道のみ)によって実施されることとなった。しかし、これはアイヌを独自の文化をもつ少数民族として位置づけ、日本全体の文化を豊かにするという意味も含めて少数民族文化の振興を図るというものであり、アイヌの先住性を正面から認めた法律ではない。 2 わが国の憲法学説はこれまで、先住民の権利についてほとんど関心を示してこなかった。しかし、近年極めて少数ではあるが、憲法上の先住権を認める説がみうけられる。第1説は、先住権を、伝統的な生活様式の維持、発展を選び取った者の生存権の集合的な権利であると理解する。第2説は、少数民族の文化享有権として先住権をとらえる。さらに、第3説は、北海道の先住民族に対する同化政策の償いとして行なわれるアファーマティヴ・アクションであればアイヌ民族の特別な権利を憲法上認めることができうるとする。 3 いわゆる二風谷ダム判決(札幌地判平成9年3月27日判例時報1598号33頁)は、国際人権規約B規約27条と憲法13条を根拠に、アイヌ民族が文化享有権を有し、それは他の少数者の文化享有権よりも強い権利であると判示した。
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