1 1997年「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が国会で成立した。この法律が成立するまでには、以下のような過程があった。 1984年、北海道ウタリ協会が「アイヌ民族に関する法律(案)」を総会で採択し、関係機関にその制定を要請したことをうけて、北海道知事の私的諮問機関として「ウタリ問題懇話会」が設置された。1988年、ウタリ問題懇話会は、新法の必要性を盛り込んだ報告書を北海道知事に提出し、北海道知事、道議会、北海道ウタリ協会は政府に新法の制定を要望した。1989年、政府は既に設置されていた『北海道ウタリ対策関係省庁連絡会議」の下に「新法問題検討委員会」を設置したが、具体的進展は見られなかった。1993年に、北海道ウタリ協会は、各党党首にアイヌ新法の早期制定を要請した。1994年、村山内閣が発足し、自民、社会、さきがけの連立与党がアイヌ新法検討プロジェクトチームを設置し、政府に審議会(懇談会)の設置を申し入れた。1995年、五十嵐官房長官が私的懇談会として「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」を設置した。この懇談会は、1996年に梶山官房長官に報告書を提出した。同年、政府は、アイヌ関連施策関係省庁連絡会議を設置した。その後、1997年に、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が成立し、施行された。同時に、「北海道旧土人保護法」など二法が廃止された。 2 カナダの1982年憲法の第2章は、カナダの先住民の権利を規定する。35条は、「先住民としての権利」と「条約上の権利」を保障し、続く、35.1条は、先住民に関する憲法改正を扱う憲法会議に参加する先住民の権利を規定する。これらの条文は、人権憲章に含まれておらず、1982年憲法は、主に個人の権利を保障する人権憲章と、集団的権利を中心とする先住民の権利を保障する35条とを憲法構造上別の章で規定している。これらの規定を前提に、人権憲章の25条は、先住民の権利を憲法上特別に保障しても、平等原則等の人権憲章上の諸規定に違反しないことを確認している。これらの条文により、先住民は、他の個人と同様の人権を有すると同時に、先住民の特別な権利を享有することが明確になった。しかしこのことにより、先住民の集団的権利と非先住民の個人的権利の関係や、先住民グループの集団的権利と先住民個人の人権憲章上の権利の関係等、非常に困難な問題を解決する必要が生じている。
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