1 平成9年に「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(いわゆるアイヌ新法)が制定されたが、これはアイヌを独自の文化をもつ少数民族として位置づけ、日本全体の文化を豊かにするという意味も含めて少数民族文化の振興を図るというものであり、アイヌの先住民族性を正面から認めた法律ではない。 2 わが国の憲法学説の中で極めて少数ではあるが、憲法上の先住権を認める説がみうけられる。第1説は、先住権を、伝統的な生活様式の維持、発展を選び取った者の生存権の集合的な権利であると理解する。第2説は、少数民族の文化享有権として先住権をとらえる。さらに、第3説は、北海道の先住民族に対する同化政策の償いとして行なわれるアファーマティヴ・アクションであればアイヌ民族の特別な権利を憲法上認めることができうるとする。いわゆる二風谷ダム判決(札幌地判平成9年3月27日判例時報1598号33頁)は、国際人権規約B規約27条と憲法13条を根拠に、アイヌ民族が文化享有権を有し、それは他の少数者の文化享有権よりも強い権利であると判示した。 3 カナダの1982年憲法の第2章は、カナダの先住民の権利を規定する。その35条は、「先住民としての権利」と「条約上の権利」を保障し、続く、35.1条は、先住民に関する憲法改正を扱う憲法会議に参加する先住民の権利を規定する。これらの規定を前提に、人権憲章の25条は、先住民の権利を憲法上特別に保障しても、平等原則等の人権憲章上の諸規定に違反しないことを確認している。これらの条文により、先住民は、他の個人と同様の人権を有すると同時に、先住民の特別な権利を享有することが明確になった。しかしこのことにより、先住民の集団的権利と非先住民の個人的権利の関係や、先住民グループの集団的権利と先住民個人の人権憲章上の権利の関係等、非常に困難な問題を解決する必要が生じている。
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