本研究の目的は、現行の行政事件訴訟法が約40年ぶりに改正される動きがでてきたことを受けて、比較法的基礎研究を試みることにあった。その根底にあった問題意識は現行行政訴訟法の基礎にある理論が憲法理念にふさわしくないというものであった。つまり、現行行政訴訟法制度は明治憲法下に成立した立憲君主制固有の行政法理論を基盤にしているという認識である。これを、国民主権と人権を基盤とする現憲法理念を反映したものに創り変える必要があると考えたのである。 このことは、一方で、行政訴訟制度の前提にある基礎理論の根本的見直しを必要とする。伝統的行政法理論の基礎には「法治主義」ないし「法律による行政の原理」がある。そこではオットー・マイヤーの三原則が語られ、法律の留保の原則を中心に議論が展開されてきた。これに対して、私は、「法律に基づく行政の原理」を提唱した。一見類似しているが中身は異なる。すなわち、この原理は、憲法原理である「法の支配」を行政法に投影したものであり、行政権を法律の執行機関と位置づけ、委任立法禁止の原則、実体的デュープロセスの法理、裁判救済の法理を導いた。 他方、行政訴訟制度においては、現行制度の前提にある公定力理論が立憲君主制の残滓にすぎず、国民主権の現行憲法の下では、立法論としては勿論のこと、解釈論としても採用できないことを主張・論証した。そのために、(1)訴訟の性質としては、通説のとる形成訴訟ではなく確認訴訟説を基本とすべきこと、(2)法の支配の原理の下では、行政法は政策実現法律としての実質をもつこと、(3)行政訴訟も意思自治原理を基本に再構築すべきであり、公定力を前提にしない原因行為を直接争う訴訟として再構成できることを論証した。
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