本年度は、引き続き、2002年にオランダのハーグ国際法アカデミーで行った「国際法の国内適用」と題する特別講義のまとめに精力を傾けた。2004年夏に英国ケンブリッジ大学において当研究課題に関するさらなる調査を行い、ドイツで開かれた国際会議で研究の一部を発表した。 国内適用可能性という概念は、アメリカ法に起源を有するが、今日では条約が国内的効力をもつ国で普通に用いられている。そして、この概念はEC法において注目すべき発展を見せている。 本研究では、アメリカ法及びEC法における定義や用法を綿密に分析したうえで、一般的な考察を行うことを目指している。国際機関の決議や司法判断に関しても同様の問題が生じるかの検討も行う。 国内適用可能性の概念に個人の権利義務を創設するということを含める説は有力であるが、国内適用可能性は、国内においてそれ以上の措置の必要なしに直接適用されうることと定義し、個人の権利義務創設とは別の問題ととらえるべきである。国内適用可能性と国内的効力が混同されることは少なくないが、この2つの問題ははっきり区別すべきである。国際法が国内で効力をもつことは直接適用されるための必要条件ではあるが十分条件ではないからである。国際法が国内で直接適用されうるかは当事国の意思によって決まる、それは国際法の問題だ、という説が有力である。しかし、当事国の意思を探求するのはあまり意味がない。国際法が国内で直接適用されうるかは、国内法が決定する問題というべきである。ただ実際には、その決定基準は諸国においてだいたい共通している。国際法規定が国内で直接適用されうるかは当該規定の明確性にかかるとされることが多い。
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